白内障の点眼薬治療
現在のところ、白内障で混濁が進行した水晶体を元の透明な状態に戻せるような薬は存在していません。しかし、その進行を遅らせるための薬なら幾種類か存在し、白内障の薬物療法に広く用いられています。中でも処方されることの多い代表的な薬が、ピレノキシンとグルタチオンの点眼薬です。
ただし、こうした薬の効果も点眼の開始年齢や白内障の進行程度などに左右される場合があるので、処方についてはご自分の白内障の状態に基づいて医師とよく相談することが大切です。
点眼薬の種類と効果
ピレノキシン点眼薬(製品名:カタリン、カリーユニ)
水晶体を構成するタンパク質が変性して混濁する原因となるキノイド物質との結合を防ぐことで、白内障の進行抑制を図る薬です。
グルタチオン点眼薬(製品名:タチオン)
水晶体を構成するタンパク質が変性して混濁する原因となる酸化を防ぐことで、白内障の進行抑制を図る薬です。
白内障の点眼薬の有効性について
例えばピレノキシン点眼薬のカタリンを用いた実証研究では、60歳未満の方でなおかつ混濁が水晶体の全面積の20%以下にしか広がっていない初期の皮質白内障に対しては進行の抑制効果が確認できたものの、核白内障、後嚢下白内障、混濁が20%以上にまで広がった皮質白内障、そして60歳を超える方の白内障に対してはそうした効果が確認できなかったという結果が報告されています。
皮質白内障、核白内障、後嚢下白内障とは水晶体のどの部分から濁り始めたかによって白内障を分類した名称で、中でも皮質白内障は比較的進行が遅く緊急度も低いタイプとされています。
こうした結果から、点眼の開始年齢や白内障の進行程度、さらには白内障のタイプによっては点眼薬の効果が発揮されない場合もあるということを認識しておく必要があります。
点眼薬治療の目的
白内障の点眼薬には症状を改善したり進行を完全に止めるような効果はなく、点眼薬を用いた治療の目的は進行を遅らせることに限定されます。また、その効果にも個人差があり、場合によっては点眼薬が十分に効かず病状が進行してしまうこともあります。そのため、点眼薬での治療期間中には定期的な経過観察が必要になります。
その上で日常生活に支障をきたすほど進行し、完治の必要性が高まった際には手術を行うことになります。
手術を受けるタイミングについて
白内障は基本的に手術を受けることで完治が可能な病気ですが、日常生活に支障をきたしていない限りは急いで手術を受ける必要性も高まりません。
しかし、進行の遅さが災いして、知らない間に運転免許の更新に必要なだけの視力が出なくなっていたり、さらにはそうした状態で運転を続けることが交通事故を招くような可能性もあります。また、白内障は進行するほどに水晶体が硬化して、それにより手術に困難が伴ったり、手術後の乱視や合併症などの発生リスクを高めるようなこともあります。
こうしたことから、当院では患者様一人ひとりの生活様式やお仕事、さらにはご本人のご希望などをしっかりとお伺いすることで、その方に最適な手術時期をご提案できるよう努めております。